ランニングをしていると、自分の横を路線バスが通り過ぎた。
何を思ったのか「あのバスに勝つぞ」と本気で思った。
しかも、本気で勝てる謎の自信があった。
全速力でバスを追いかける。
10m、20mと、どんどん離されていく。
それでも、決してあきらめなかった。ほら見たことか、バス停だ。この間に、距離をつめ、真後ろにまで迫った。
だが、バス停を離れたバスは、容赦なく走り去っていった。
結果として、バスに勝てなかった。
これは、身体能力がないからじゃない。
バスが時速40kmで走れるからじゃない。
自分にバスに勝つ才能がないからじゃない。
バスと争う知識も経験もないからじゃない。
あきらめたからだ。
ぼくがバスと戦うことをあきらめたから、負けたのだ。
気づいたことがある。
夢中になってバスを追いかけていたら、ずいぶん遠くまで来ていた。
知らないうちに、前に進んでいたのだ。
今回のバスがダメでも、また新しいバスを見つけて、走ればいいのだ。
そのバスを追った軌跡は、決してムダにはならないはずだから。
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