驚くほどツノの長い牛の大群がいた。
これは写真に収めなくてはと、スマートフォンをカメラの起動した。
シャッターを切った瞬間、牛の飼い主らしきおじいさんが、ものすごい剣幕でこちらへ向かってきた。
キニアルワンダ語でなにやら怒っているようだ。
しかし、何を言っているのかまったく分からない。おそらく、写真を撮ったのなら金を払え的なことだと予測できる。
おじいさんのあまりの勢いに怯んでしまった。
どうにか片言のキニアルワンダ語で、和解を目指そうと試みたがうまくいかない。
止まる様子のないおじいさんを見て、あることを閃いた。
そうだ、こちらも日本語でまくしたててみよう。トラブル時に母国語で反論すると良いと、誰かが言っていた気がする。
依然として荒ぶっているおじいさんに、早口で日本語をぶつけてみた。
「ぼく日本語しか分からないから、何を言っているのかさっぱり分かりません。ごめんなさい、おじいさん」。
すると、こちらに向かって来ていた足を止め、表情が緩んだ。
この隙を見逃さずに「ごめんね、おじいさん。日本語しか分からないんだよ」と、日本海の荒波のごとく畳みかけた。
おじいさんは恐怖を感じたのか諦めたのか、笑って立ち去っていった。
よかった。なんとか乗り切った。
怒涛のキニアルワンダ語を投げかけられるとビビるのと同様、怒涛の日本語も怖いのだろう。これは有効だ。
ただ、今回は難を逃れることができたが、もし相手が本気でヤバいヤツだったら命はないだろう。
なので、秘技・日本海は封印することにした。
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