【page.18】市長がご乱心|114日目〜120日目

 

市長がご乱心だそうだ。

 

市長に会ったことはないし、見たことすらない。男性か、女性かも知らないし、名前も分からない。

ともかく、市長がご乱心召されたのだ。

なにがあった市長

その理由は、あるコーペラティブにありました。

 

大工と溶接工のコーペラティブが使用する施設、「アガチリロ」。

実はここに、もうひとつ別のコーペラティブがあるらしいのです。

それが、洋服を仕立てるテーラーたちの団体。

 

家具や鉄の加工場と並んで、裁縫専用の施設がたしかにあります。

 

小学校の体育館を思い出させる建物で、50台ほどのミシンが熱血体育教師の説教をきく子どもたちばりに整列しています。

 

他にも、裁縫に使う謎のマシーン、大量の机や椅子。

ルワンダ人の多くは、資金や設備がないと嘆きます。その中、これだけの環境を持つコーペラティブがあることに、驚きました。

 

しかし、この設備が全く使われていないと言うのです。

そりゃ、市長も騒ぎ出すわけだ。国の捜査局も動いているそうだ。

加えて、白羽の矢が立ったのが、我がビジネス振興課だったのです。

 

ビジネス振興課のボスであるガイに呼び出され、「ユウスケ、アガチリロの様子を見てこい」との指令が入ります。

外国人に市長案件を任せていいのか? とツッコミたくなる右手もを抑え、ぼくはアガチリロへ足を運びました。

悪魔のワード

アガチリロに着き、彼らの話を聞いてみると、言い分はこうでした。

 

コロナウイルスの影響で、販売量が減ってしまい、商品をつくるための材料を買えなくなった。それゆえ、この施設を使うほどの生産量がないのだと。

だから、材料を買うお金がほしいとのこと。

 

すべてを知っているわけではないので、断定できないですが、この施設はコロナ以前から使われていませんでした。

1年前、家具職人たちの支援していたこともあり、よくアガチリロに訪れていました。ところが、この施設が稼働しているのは、一度も見たことがなかったです。

 

「コロナウイルスの影響で」

 

この言葉は便利です。

だからこそ、使い方に気をつける必要があります。この言葉を口にすると、大抵の人の納得してしまう。悪魔のワードなのです。

 

ぼく自身、この1年間、何かと言い訳をしてしまっていたことを思い大します。

挑戦したいことがあっても、コロナが落ち着いてからにしよう。行ってみたい場所があっても、コロナだからやめとこう。最近うまくいかないのは、コロナだから仕方ない。

 

ほんとうにそうだろうか。

もちろん、コロナの影響はある。でも、それを盾に自分を守っていないだろうか。コロナで打撃を受けても、そこからできることがあるはずだ。思考停止になっているのではないか。

改めて、昨年の自分に言い聞かせたいものです。

お金の魔力

ともあれ、これからどうするかを考えるしかない。

 

話を聞いていて、ふと思い出しました。

このテーラーのコーペラティブは、1年前、別の事件も起こしていたことを。

青年海外協力隊日記 page8 (訪問!訪問!訪問! 48日目〜54日目)

 

お金の持ち逃げです。

犯人は、このコーペラティブの代表でした。そして今回、事情を話してくれたのも、彼だったのです。

 

なるほど、結局、彼は犯人ではなく、お金の一件も解決したのだと。

念のため、ガイに、1年前の事件は解決したのかを尋ねてみました。

答えは、「NO!!」。

 

ガイ曰く、彼が犯人であることは間違いなく、裁判所に連れていきたいらしい。

1年以上も取り締まれないのは、なぜだろうか。証拠がないのだろうか……。

 

お金は恐ろしい。

 

このテーラーの団体の件も、決して代表が悪いのではなく、環境に問題がある。

つまり、お金を着服できるような環境になっていること。これが良くないのです。

 

これはルワンダに限った話ではないのです。日本でも同じです。

 

仕事ができ、明るく、面倒見もよく、ぼくを可愛がってくれた先輩も、金銭トラブルで会社から追放された。

これは完全にぼくの責任ですが、店長時代には店のお金がなくなることが何度もあった。

 

尊敬する先輩も、信頼していたスタッフも、ぼくは大好きだし、ほんとうに良い人たちでした。その気持ちは今でも変わりません。

 

そんな人たちでも、手の届くところに「お金」があると、魔がさしてしまうんです。

資本主義社会の現代において、お金には、それほどの魔力があるのです。

 

お金は道具であって、主ではない。そもそも人間が作り出したものである。現代において、その主従関係が入れ替わるようなことが起こっているように思います。

 

いつか「AI」が人間を支配してしまうのではないか、という議論をする前に、まず「お金」について議論するべきではないのだろうか、と考えさせられる1週間でした。

 

なんか、ルワンダに来て、お金のことばかり書いている気がしますが……。

それほど、お金について考える機会が多いのです。

 

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